横須賀海軍カレー：歴史と海軍の知恵、家庭で楽しむ再現レシピ
日本において、カレーライスは国民食とも言える存在ですが、そのルーツの一つに「海軍カレー」があることをご存知でしょうか。神奈川県横須賀市には、この海軍カレーの伝統を受け継ぎ、地域活性化のシンボルとなっている「横須賀海軍カレー」があります。この記事では、横須賀海軍カレーの深い歴史と、その特徴、そしてご家庭でその味を再現するためのヒントをご紹介します。
横須賀海軍カレーの由来とその歴史
日本の海軍がカレーライスを食事に取り入れたのは、明治時代に遡ります。長期にわたる海上勤務において、船員たちの栄養状態を保つことは非常に重要でした。当時の日本海軍は、イギリス海軍をお手本としており、イギリス海軍で既に栄養バランスの取れた食事として提供されていたカレーシチューが参考にされました。
栄養豊富で一度に多くの量を作ることができ、しかも美味しく食べられるカレーは、たちまち日本の軍艦食として広まります。さらに、艦上という閉鎖された環境で曜日感覚を失わないよう、「毎週金曜日はカレーの日」と定めた習慣も生まれました。これは、海上自衛隊でも現代まで受け継がれている伝統です。
横須賀海軍カレーの大きな特徴は、明治41年（1908年）に発行された「海軍割烹術参考書」に記されているレシピを基に作られている点です。この参考書は、当時の海軍の調理法をまとめたもので、現在の横須賀市では、このレシピを現代風にアレンジしつつも、その精神を受け継いだカレーを「横須賀海軍カレー」として提供しています。
「海軍割烹術参考書」に基づくレシピのポイントと家庭での調理のコツ
「海軍割烹術参考書」に記載されているカレーは、牛肉、人参、じゃがいも、玉ねぎを使い、小麦粉とカレー粉で作るシンプルなものでした。現代の横須賀海軍カレーは、これをベースに、より美味しく、家庭でも再現しやすいように工夫されています。
家庭で横須賀海軍カレーを再現する際のポイントはいくつかあります。
- 牛肉の選び方と下準備: 牛肉は煮込みに適した塊肉（カレー・シチュー用など）を選ぶと、柔らかく仕上がります。一口大に切った後、軽く表面を焼いて旨味を閉じ込めるのがおすすめです。
- 香味野菜のソテー: 玉ねぎ、人参、じゃがいもをしっかりと炒めることで、野菜本来の甘みや風味が引き出され、カレー全体の味が深まります。特に玉ねぎはじっくり飴色になるまで炒めると、格段に美味しくなります。
- ルウの作り方: 小麦粉をバターでしっかりと炒め、そこにカレー粉を加えてさらに炒めることで、香ばしく深みのあるルウができます。市販のルウを使う場合は、カレールウとカレー粉を併用したり、スパイスを加えたりすることで、より本格的な味わいに近づけることも可能です。
- 煮込み: 材料を鍋に入れたら、水を加えてじっくりと煮込みます。牛肉や野菜が柔らかくなるまで、焦げ付かないように注意しながら煮込むのがコツです。
- 牛乳を添える: 横須賀海軍カレーを提供するお店の多くでは、カレーライスに必ず牛乳を添えています。これは「海軍割烹術参考書」で推奨されていたスタイルであり、海軍カレーの伝統の一つです。ぜひご家庭でも真似してみてください。
基本的な手順は一般的な家庭のカレーライスと大きく変わりませんが、「海軍割烹術参考書」のレシピを意識し、野菜やルウを丁寧に作ることで、一味違った奥深い味わいになります。
使用する食材と入手方法
横須賀海軍カレーの主な材料は、牛肉、玉ねぎ、人参、じゃがいも、小麦粉、カレー粉、バター（または油）、水、塩、こしょうなど、比較的家庭で手に入りやすいものばかりです。
- 牛肉: カレー用のブロック肉やスライス肉など、お好みに合わせて選べます。品質の良いものを選ぶと、より一層美味しく仕上がります。
- カレー粉: ここが「海軍割烹術参考書」らしさを出すポイントです。一般的な市販のカレールウではなく、「カレー粉」を使うことで、スパイシーで本格的な味わいになります。近年では、横須賀市内の専門店や土産物店、あるいはオンラインショップなどで、「海軍割烹術参考書」を参考にブレンドされたオリジナルの海軍カレー粉やカレールウが販売されています。これらを利用すると、より手軽に本場の味に近づけることができます。
- その他の材料: 野菜やバターなどは、お近くのスーパーマーケットで入手可能です。
「海軍割烹術参考書」準拠のカレー粉やルウは、インターネット通販サイトでも取り扱っている店舗が多いので、横須賀に行かずとも手に入れることが可能です。「横須賀海軍カレー」関連商品を扱う地元の特産品店やオンラインショップなどを探してみることをお勧めします。
地域文化と横須賀海軍カレーの繋がり
横須賀市は、古くから日本海軍、そして海上自衛隊の重要な拠点として栄えてきました。海軍の存在は、港町の文化や人々の生活に深く根ざしています。横須賀海軍カレーは、単なる料理としてだけでなく、この地域に息づく海軍の歴史と文化を象徴する存在となっています。
1990年代後半から、横須賀市では町おこしの一環として「横須賀海軍カレー」をブランド化しました。「美味しい」「栄養満点」「必ず牛乳がつく」「『海軍割烹術参考書』のレシピを基に現代風にアレンジ」といった定義を設け、市内の多くの飲食店で提供を始めました。また、家庭で楽しめるレトルトカレーや、関連グッズの開発・販売も積極的に行われています。
毎週金曜日にカレーを食べる習慣や、海軍式のレシピに倣うことは、この地域の人々にとって、歴史への敬意や、海と共に生きる文化への誇りを再認識する機会でもあります。横須賀海軍カレーは、地域住民にとっても、訪れる人々にとっても、横須賀の歴史と文化を感じさせてくれる大切な食文化となっています。
まとめ
横須賀海軍カレーは、日本のカレーライスの歴史を紐解く上で欠かせない存在です。明治時代の海軍で生まれた栄養満点のカレーは、「海軍割烹術参考書」という貴重な記録を経て、現代の横須賀の食文化として受け継がれています。
牛肉と香味野菜の旨味、そして特徴的なカレー粉を使ったスパイシーな味わいは、一度食べると忘れられない魅力があります。ぜひこの記事を参考に、「海軍割烹術参考書」の知恵が詰まった横須賀海軍カレーをご家庭で作ってみてください。牛乳を添えて、金曜日に味わえば、日本の海軍の歴史と、横須賀の港町文化をより身近に感じることができるでしょう。