Japan Regional Food & Culture

長野県の五平餅:山里に伝わる知恵と香ばしい味わい、家庭での楽しみ方

Tags: 五平餅, 長野県, 郷土料理, 米料理, 家庭料理

日本各地には、その土地の風土や歴史の中で育まれた個性豊かな郷土料理が存在します。今回ご紹介するのは、長野県の南部、伊那谷や木曽地方を中心に親しまれている「五平餅」です。つぶしたご飯を成形し、甘じょっぱいタレを塗って香ばしく焼き上げた五平餅は、見た目にもユニークで、一口頬張ればどこか懐かしい温かい味わいが広がります。単なる軽食としてだけでなく、地域の暮らしや文化と深く結びついた五平餅の魅力に迫り、ご家庭でその味わいを再現するための情報をお届けします。

山間部の暮らしが生んだ知恵:五平餅の由来と歴史

五平餅の歴史は古く、稲作が盛んに行われていた山間部で、米を無駄なく、そして手軽に食べるための知恵として誕生したと言われています。かつて貴重だった米を大切に使い、かさ増しや保存性を高めるために、ご飯を軽くつぶして成形し、焼いて食すようになったと考えられています。

五平餅の最も特徴的な形である「わらじ型」は、農作業や林業で履くわらじに似ていることからその名がついたという説や、神事の際に供えられた餅の形に由来するという説など、諸説あります。地域によっては、丸型や団子型、木の葉型など、様々な形の五平餅が見られます。これらの形は、その土地の風習や作り手の個性によって受け継がれてきました。

「五平」という名前の由来についても、諸説あります。かつて岐阜県の山村に住んでいた「吾平」という木こりが弁当として持っていったことに由来するという説や、神を祀る儀式で使われる御幣(ごへい)の形に似ているからという説などが語り継がれています。名前一つをとっても、五平餅が人々の暮らしや信仰と密接に関わってきたことがうかがえます。

五平餅は、祭りや祝い事の際にはもちろん、日々の農作業の合間の軽食や、山仕事へ持っていく携行食としても重宝されてきました。炭火でじっくりと焼き上げ、香ばしいタレを塗ることで、腹持ちが良く、疲れた体に活力を与える存在だったのです。

家庭で楽しむ五平餅:作り方と美味しさのコツ

五平餅は、シンプルな材料ながら、家庭で美味しく作るためにはいくつかのコツがあります。ここでは、一般的な家庭で手軽に作れる方法とポイントをご紹介します。

【基本的な作り方】

  1. ご飯を準備する: 炊きたてのご飯(冷やご飯でも可)をボウルに入れ、しゃもじや麺棒などで軽くつぶします。完全にペースト状にするのではなく、米粒の形が少し残る程度にするのがポイントです。こうすることで、焼いた時に香ばしさと米の食感の両方を楽しむことができます。
  2. 形を作る: つぶしたご飯を適量取り、手に水をつけてわらじ型、丸型、団子型など好みの形に整えます。ご飯が熱い場合は、ラップを使うと火傷を防げます。竹串などに刺す場合は、崩れないようにしっかりと握ります。
  3. タレを作る: 五平餅の味の決め手となるタレは、地域や家庭によってバリエーションがありますが、一般的にはクルミやゴマをすり潰したものに、醤油、砂糖、みりんなどを加えて作ります。クルミやゴマは炒ってから使うと香ばしさがアップします。甘さや醤油の量は、お好みに合わせて調整してください。
  4. 焼く: 形作った五平餅を焼きます。本来は炭火で焼くのが一番ですが、家庭ではフライパン、オーブントースター、魚焼きグリルなどが利用できます。
    • フライパン: 少量の油をひき、中火で両面に焼き色がつくまで焼きます。
    • オーブントースター/魚焼きグリル: アルミホイルを敷き、焼き色がつくまで数分焼きます。
  5. タレを塗って仕上げる: 両面に焼き色がついたら、作ったタレをたっぷりと塗ります。再度、タレが軽く焦げるまで(1〜2分程度)焼き上げれば完成です。タレを塗ることで、ご飯の表面が固まり、香ばしさが増します。

【美味しく作るコツ】

食材とその入手方法

五平餅の主な材料はご飯とタレの材料です。ご飯は普段お使いのうるち米で美味しく作れます。タレの材料としては、クルミ、ゴマ(白ごま、黒ごま)、地域によってはエゴマなどが使われます。

自宅で作る際は、特にタレに使うナッツ類や種実の鮮度が香ばしさに影響します。可能であれば、殻付きのクルミを購入して自宅で割ったり、使う分だけ炒ったりすると、より一層風味が豊かになります。

地域文化と五平餅の繋がり

五平餅は、長野県南部の山間部で暮らす人々の知恵と工夫が詰まった郷土料理です。米が貴重だった時代に、無駄なく美味しく食べる方法として生まれ、農作業の合間の軽食や、祭りや行事の際の振る舞い食として、人々の暮らしに寄り添ってきました。

この地域では、秋の収穫祭や春の田植えの時期など、節目となる行事で五平餅が作られ、地域の人々が集まって共に食す習慣が今も残っている場所があります。また、結婚式や棟上げ式といった祝い事や、お盆などの仏事にも登場するなど、五平餅は単なる日常食に留まらず、地域の絆や文化を繋ぐ役割も果たしています。

現在では、道の駅や観光地の売店、地域の飲食店でも五平餅が提供されており、訪れる人々にとって地域の味覚を楽しむ機会となっています。それぞれの店や家庭でタレの味が異なり、その多様性も五平餅の魅力の一つと言えるでしょう。それは、それぞれの土地の風土や家庭の味が受け継がれてきた証でもあります。

結びに

長野県の五平餅は、素朴ながらも深い歴史と地域文化を秘めた郷土料理です。山里の人々の知恵と工夫が詰まったこの味は、厳しい自然環境の中で生き抜いてきた人々の逞しさや、米を大切にする文化、そして地域で支え合って暮らす人々の温かさを伝えてくれます。

ご家庭で五平餅を作ることは、単に美味しい郷土料理を再現するだけでなく、その背景にある地域の歴史や文化に触れる貴重な体験となるでしょう。ぜひこの記事を参考に、長野県の山里の味、五平餅をご自宅で楽しんでみてください。香ばしい香りと素朴な味わいが、きっと心を温かくしてくれるはずです。